東京大学 2018年度 世界史過去問

世界史

第1問
 近現代の社会が直面した大きな課題は、性別による差異や差別をどうとらえるかであった。18世紀以降、欧米を中心に啓蒙思想が広がり、国民主権を基礎とする国家の形成が求められたが、女性は参政権を付与されず、政治から排除された。学問や芸術、社会活動など、女性が社会で活躍する事例も多かったが、家庭内や賃労働の現場では、性別による差別は存在し、強まることもあった。
 このような状況の中で、19世紀を通じて高まりをみせたのが、女性参政権獲得運動である。男性の普通選挙要求とも並行して進められたこの運動が成果をあげたのは、19世紀末以降であった。国や地域によって時期は異なっていたが、ニュージーランドやオーストラリアでは19世紀末から20世紀初頭に、フランスや日本では第二次世界大戦末期以降に女性参政権が認められた。とはいえ、参政権獲得によって、女性の権利や地位の平等が実現したわけではなかった。その後、20世紀後半には、根強い社会的差別や抑圧からの解放を目指す運動が繰り広げられていくことになる。
 以上のことを踏まえ、19〜20世紀の男性中心の社会の中で活躍した女性の活動について、また女性参政権獲得の歩みや女性解放運動について、具体的に記述しなさい。解答は、解答欄(イ)に20行以内で記述し、必ず次の8つの語句を一度は用いて、その語句に下線を付しなさい。

 キュリー(マリー)  産業革命   女性差別撤廃条約(1979)
 人権宣言     総力戦    第4次選挙法改正(1918)
 ナイティンゲール フェミニズム

第2問
 現在に至るまで、宗教は人の心を強くとらえ、社会を動かす大きな原動力となってきた。宗教の生成、伝播、変容などに関する以下の3つの設問に答えなさい。解答は、解答欄(ロ)を用い、設問ごとに行を改め、冒頭(1)〜(3)の番号を付して答えなさい。

問(1) インドは、さまざまな宗教を生み出し、またいくつもの改革運動を経験してきた。古代インドでは、部族社会がくずれると、政治・経済の中心はガンジス川上流域から中・下流域へと移動し、都市国家が生まれた。そして、それらの中から、マガダ国がガンジス川流域の統ーを成し遂げた。こうした状況の中で、仏教やジャイナ教などが生まれた。また、これらの宗教はその後も変化を遂げてきた。これに関する以下の(a)・(b)・(c)の問いに、冒頭に(a)・(b)・(c)を付して答えなさい。

 (a) 新たに生まれた仏教やジャイナ教に共通のいくつかの特徴を3行以内で記しなさい。
 (b) 仏教やジャイナ教などの新宗教が出現する一方で、従来の宗教でも改革の動きが進んでいた。その動きから出てきた哲学の名称を書きなさい。
 (c) 紀元前後になると仏教の中から新しい運動が生まれた。この運動を担つた人々は、この仏教を大乗仏教と呼んだが、その特徴を3行以内で記しなさい。

問(2) 中国においては、仏教やキリスト教など外来の宗教は、時に王朝による弾圧や布教の禁止を経ながらも、長い時間をかけて浸透した。これに関する以下の(a)・(b)の問いに、冒頭に(a)・(b)を付して答えなさい。

 (a) 図版1は、北魏の太武帝がおこなった仏教に対する弾圧の後に、都の近くに造られた石窟である。この都の名称と石窟の名称を記し、さらにその位置を図版2のA〜Cから1つ選んで記号で記しなさい。

 (b) 清朝でキリスト教の布教が制限されていく過程を3行以内で記しなさい。

問(3) 1517年に始まる宗教改革は西欧キリスト教世界の様相を一変させたが、教会を刷新しようとする動きはそれ以前にも見られたし、宗教改革開始以後、プロテスタンテイズムの内部においても見られた。これに関する以下の(a)・(b)の問いに、冒頭に(a)・(b)を付して答えなさい。

 (a) 13世紀に設立されたフランチェスコ会(フランシスコ会)やドミニコ会は、それまでの西欧キリスト教世界の修道会とは異なる活動形態をとっていた。その特徴を2行以内で記しなさい。
 (b) イギリス国教会の成立の経緯と、成立した国教会に対するカルヴァン派(ピューリタン)の批判点とを、4行以内で記しなさい。

第3問
 世界史において、ある地域の政治的・文化的なまとまりは、文字・言語や宗教、都市の様態などによって特徴づけられ、またそれらの移り変わりに伴って、まとまりの形も変化してきた。下に掲げた図版や地図、資料を見ながら、このような、地域や人々のまとまりとその変容に関する以下の設問(1)〜(10)に答えなさい。解答は解答欄(ハ)を用い、設問ごとに行を改め、冒頭に(1)〜(10)の番号を付して記しなさい。

問(1) 10〜13世紀頃のユーラシア東方では、新たに成立した王権が、独自の文字を創出して統治に用いるという事象が広く見られた。図版aは、10世紀にモンゴル系の遊牧国家が創り出した文字である。この国家が、南に接する王朝から割譲させた領域を何というか、記しなさい。

問(2) 13世紀にモンゴル高原に建てられた帝国は、周囲の国家をつぎつぎに併合するとともに、有用な制度や人材を取り入れた。図版bは、この帝国が、滅ぼした国家の制度を引き継いで発行した紙幣であり、そこには、領内から迎えた宗教指導者に新たに作らせた文字が記されている。その新たな文字を何というか、記しなさい。

問(3) 図版cに含まれるのは、インドシナ半島で漢字を基にして作られた文字であり、13世紀に成立した王朝の頃に次第に用いられるようになった。この王朝は、その南方にある、半島東岸の地域に領域を拡大している。漢字文化圏とは異なる文化圏である、その領域にあった国を何というか、記しなさい。

問(4) 430年、地図中の都市Aの司教は、攻め寄せてきた部族集団に包囲される中、その生涯を閉じた。
 (a) 若い頃にマニ教に関心を示し、その膨大な著作が中世西欧世界に大きな影響を及ぼした、この司教の名前を記しなさい。
 (b) また、この攻め寄せてきた部族集団は数年後には都市Bも征服した。この部族集団名を記しなさい。解答に際しては、(a)・(b)それぞれについて改行して記述しなさい。

問(5) 次の資料は、地図中の都市Cに関する1154年頃の記述である。下線部①は、直前の時期に起きたこの都市の支配者勢力の交替に伴って、旧来の宗教施設[ あ ]が新支配者勢力の信奉する宗教の施設に変化したことを述べている。この変化を1行で説明しなさい。

 アル=カスル地区は、いにしえの城塞地区で、どこの国でもそう呼ばれている。三つの道路が走っており、その真ん中の通りに沿って、塔のある宮殿、素晴らしく高貴な館、多くの[ あ ]、商館、浴場、大商店が立ち並んでいる。残りの二つの通りに沿っても美しい館、そびえ立つ建物、多くの浴場、商館がある。この地区には、①大きな[ あ ]、あるいは少なくともかつて[ あ ]とされた建物があり、今は昔のようになっている。
  イドリーシー『遠き世界を知りたいと望む者の慰みの書』(歴史学研究会編『世界史史料2』より、一部表記変更)

問(6) ウルグアイなど南米で勇名を馳せたある人物は、1860年9月に地図中の都市Dに入り、サルデーニャ王国による国民国家建設に大きな役割を果たした。その一方で、彼の生まれ故郷の港町は同年4月にサルデーニャ王国から隣国に割譲され、その新たな国民国家に帰属することはなかった。この割譲された港町の名前を記しなさい。

問(7) 地図中の都市Aを含む地域は近代以降植民地とされていたが、20世紀後半に起きたこの地域の独立運動とそれに伴う政情不安が契機になり、宗主国の体制が転換することになった。この転換した後の体制の名称を記しなさい。

料X
 世界で[ い ]のようにすばらしい都市は稀である。…[ い ]は、②信徒たちの長ウスマーン閣下の時代にイスラームを受容した。…ティムール=ベグが首都とした。ティムール=ベグ以前に、彼ほどに強大な君主が[ い ]を首都としたことはなかった。
   バ一ブル(間野英ニ訳)『バ一ブル=ナーマ』(一部表記変更)

資料Y
 ティムールがわれわれに最初の謁見を賜った宮殿のある庭園は、ディルクシャーと呼ばれていた。そしてその周辺の果樹園の中には、壁が絹かもしくはそれに似たような天幕が、数多く張られていた。…今までお話ししてきたこれらの殿下(ティムール)の果樹園、宮殿などは[ い ]の町のすぐ近くにあり、そのかなたは広大な平原で、そこには河から分かれる多くの水路が耕地の間を貫流している。その平原で、最近、ティムールは自身のための帳幕を設営させた。
    クラヴィホ(山田信夫訳)『ティムール帝国紀行』(一部表記変更)

問(8) 次の図ア〜エのうち、資料X・Yで述べられている都市[ い ]を描いたものを選び、その記号を記しなさい。

問(9) (a)資料X中の下線部②の記述は正確ではないが、[ い ]を含む地域において、住民の信仰する宗教が変わったことは事実である。この改宗が進行する以前に、主にゾロアスター教を信仰し、遠距離商業で活躍していた、この地域の人々は何と呼ばれるか、その名称を答えなさい。(b)また、下線部②に記されている人物を含む、ムスリム共同体の初期の4人の指導者は特に何と呼ばれるか、その名称を記しなさい。解答に際しては、(a)・(b)それぞれについて改行して記しなさい。

問(10) 資料Xは、もと[ い ]の君主であった著者の自伝である。この著者が創設した王朝の宮廷で発達し、現在のパキスタンの国語となった言語の名称を記しなさい。

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