新科目「歴史総合」
歴史教育に新たな風が吹くのか、はたまた形骸化したお題目に過ぎないのか
令和4年度からの実施に向けて、一足先に実施している現場からお届けします。
歴史総合とは
令和4年度から実施される高等学校新学習指導要領
現場で働く教師や予備校・塾講師、実際に学ぶ生徒の関心も高いものですが、特に注目されているのが社会科でしょう。
世間的に社会科と呼ばれますが、それは中学校段階まで。
正確には、「地理歴史科」「公民科」という名称です。
ただ、同じ先生が教えたり、受験科目で横並びになったりと「社会科」で特に弊害はないように思います。
で、この地歴公民科の変更点が大きなものでして、特徴を概観していきます。
新科目の設定
次の表を見てください。

国語科も大きく変わりますが、地歴公民の変化も非常に大きいことがよくわかるでしょう。
特に地歴は従来の日本史・世界史・地理のA・B科目が廃止され、
歴史総合・地理総合の総合科目、日本史探求・世界史探究・地理探求の探求科目が新設されます。
公民科も現代社会が廃止され、公共が新設されます。
これだけ見ると、A科目が総合科目に、B科目が探求科目、現代社会が公共に変わっただけのようにも見えます。
しかし、指導要領の改訂ですからそんなに簡単なものではありません。
地理総合・歴史総合・公共ともに必履修科目です。
即ち全ての生徒がこれらの科目を学習します。
また、探求科目は総合科目の上位科目とされているので
探求科目と総合科目を同時に開講することは困難です。
理念的な話は置いておくと、このカリキュラム設定が高校の現場を悩ませているわけです。
従来のいきなりB科目ということができなくなるわけです。
はっきり言って、進学を軸に据える本校からすればえらい迷惑な話です。
歴史総合の扱い
指導要領の改定に関しての概観はこれくらいにしておいて
本記事のメインである「歴史総合」について詳しく触れていきましょう。
先ほども述べたように、歴史総合は必履修科目です。全員が履修しなければなりません。
この科目が従来のA科目と何が違うかというと、「日本史と世界史が混ざっている」ということです。
「そもそも歴史に日本史も世界史もあるかい」というツッコミはスルーして、
今までのA科目を複合させた内容だということです。
「日本も世界もなく近現代を学ぶぞ」というものです。
それも時系列順ではないのです。テーマ別なのです。
もちろん歴史ですから、ある程度は時代順に構成されていますが、
多面的に歴史を見るという理念から、同じ事項が何度も登場します。
すなわち歴史総合とは、「現代とつながりの強い近現代史を、多面的に学ぶ」科目なんですね。
歴史を教えるものとして非常にワクワクする科目設定です。
しかし、物事良い面ばかりではなく、悪い面もあるんですね。
それは次の項で
歴史総合の課題
非常に良いお題目を掲げてはじまる歴史総合
ここで「お題目」と書いてしまうところが大きな問題点なのです。
僕が考える課題を何点か紹介します。
- 学習内容が多すぎる
- 思考力・表現力を重視する
- 探求科目との接続が見えない
- 入試科目に入る
学習内容が多すぎる
まず、近現代史をテーマ毎に見ていくと簡単に言っていますが、
日本史A・世界史Aでそれぞれ2単位で扱っていたものを合わせて2単位でやろうというのですから
これは非常に無謀なことだと言えます。(元々A科目を2単位でやるのが難しいのはスルー)
普通に考えれば時間が足りません。
2021年度に入ってようやく教科書見本が届き始めましたが、どれも内容はもりだくさん。
これを2単位で扱うのは正直厳しい。
思考力・表現力を重視する
次がこれ
思考力・表現力を重視すること自体に異論はありません。
インプットだけでなく、アウトプットもできないといけませんし、
「知ってる」から「分かる」「使える」になるためにはやってみるしかありません。
ただですよ。
時間が足りん!
いくら中学校で歴史をやるとはいえ、最初から「知ってる」にはなってないんですよ。
それには「教える」時間も必要ですから、時間を圧迫することになります。
探求科目との接続が見えない
これは実施数年で解決する問題だと思います。
が、走り始めている学校もある中で、歴史総合から日本史探求・世界史探究への接続が見えないのはまずいです。
いったいどこまで教えていいのか、なにが出来れば子どもたちは学習できたことになるのか
上位科目が全てではないですが、先を見通せないと教えづらくてしょうがないです。
入試科目に入る
最後が入試科目に入るということ
先日(2021年3月下旬)、令和7年度大学入学共通テストのサンプルが公表されました。
地理総合・歴史総合・公共と解きましたよ。
問題の公表に加えて、受験科目の形態も発表されていました。
そこには、
地理総合・地理探求、歴史総合・日本史探求、歴史総合・世界史探求、地理総合・歴史総合・公共
の入試科目が設定されるとありました。
おいおい、総合科目が全てに入っとるやないかい
大学側がどの科目を要求してくるかによって、高校としては教えるものが変わってきます。
ひょっとすると、理系学部なんかは「地理総合・歴史総合・公共」を指定してくるかもしれません。
文系学部が理科の「基礎から2科目」でも受験できるように
しかし、ほとんどの大学受験生が歴史総合を受験科目として利用せざるを得ない状況が生まれそうです。
サンプル問題は良かったと思います。
資料が多すぎて解きづらいですけどね。
歴史総合の意義・ゴール
非常に先行き不安で、やっかいともいえる歴史総合ですが、
教えないわけにはいきません。
そこで、本校では、本校の実情にあった、意義・ゴールを設定して授業をスタートさせました。
- 現代とのつながりを意識する歴史教育
- 多面的に考察する歴史教育
この二つを軸とすることにしました。
また、
- 自ら情報を集め、まとめる力
- 説得力のある文章を書く力
この二つのゴールを設定しました。
具体的には、
- 事細かく教えないこと
- 問題演習の時間をしっかり取ること
- 教科書を自分で読めるようになること
を実践していくことになりました。
正直なところ走りながら考えています。
次年度は教科書も配給され、副教材もたくさん登場するでしょう。
なので、僕の実践は水泡に帰するかもしれません。
しかし、子どもたちがせっかく歴史を学ぶのに、中途半端なことはできません。
どっちつかずの1年間何をしたのかわからない、なんとなくよくわからない人名を覚えた。
では困るのです。
現中3の生徒が3年後の大学入試で役立つ、確かな学力となるよう意義・ゴールを設定したつもりです。
最後に
今回は歴史総合の意義・ゴールについて思うところをまとめました。
次の記事では具体的な授業方針・定期テストの構成に触れていきます。